2022.04.01

第8回 VHHのがん光免疫療法への応用

2022年4月のコラムです。今回はVHH抗体の臨床応用の一例として、がん光免疫療法への応用について紹介します。次世代抗体VHHの魅力をご理解頂ければ幸いです。

 

私はがん光免疫療法に興味を持ちVHH抗体活用の機会を探ってきました。2016年、現在の米国大統領バイデン氏(当時はオバマ政権時の副大統領)は、オバマ氏のCancer Moonshot宣言の実行役責任者としてがん撲滅に取り組んで来ました。当時は、がん治療の第4の柱として位置付けられた免疫チェックポイント阻害剤が台頭し、さらにNIHの小林先生によるIR700誘導体を用いた光免疫療法の臨床研究が精力的に進められていました。Moonshotとは、米国人にとってはケネディ大統領が残した特別な言葉で、がん撲滅の宣言として人類に勇気を与えてくれるものになっています。驚くべきことに日本企業の楽天メディカルジャパンは米国企業に先立って一早くがん光免疫療法に関わる様々な権利を整理し、がんを対象に日本で第3相臨床治験を実施し、2020年9月に製造承認を取得しました。すでに承認されていた抗EGF受容体抗体セツキシマブを活用してIR700誘導体で標識したADC抗体をがん細胞に結合させ、近赤外線照射によってIR700誘導体を活性化し、がん細胞を破壊するという作用機序です。こうして新たながん治療法としてがん光免疫療法が認められ、がん治療の第5の柱として注目されており、様々な関連研究が精力的に進められています。IR700誘導体のような光感受性の化合物の合成は簡単ではありませんが、東大薬学部では量子収率が高く、製造工程も少ない合成法による化合物が作成されました。

 

東大先端研の児玉龍彦先生は、進行癌の新たな治療法の開発に取り組みプレ・ターゲティングの手法の開発を進めて来ました。筆者と児玉先生は、過去にゲノム抗体医薬の発案者として共同研究を実施してきた間柄で、現在も時々情報交換を行っています。児玉先生の研究グループは革新的な技術(Antibody mimetic drug conjugate:AMDC)の開発に成功し、さらに東大ではSiPcという光感受性の新規誘導体の合成に成功し1、この技術を光免疫治療に活用できることを示し、最近その成果を論文に公表しました2。児玉先生はSavid Therapeutics社を立ち上げました。ビオチンーアビジンの相互作用を利用し、アビジン側には細胞膜抗原に結合できる分子(ペプチド、抗体等)を融合しアビジンをCupidと名付けました。一方ビオチンにペイロード(薬剤、放射性同位元素など)を結合したものをPsycheと呼びます。2022年1月、児玉先生はHer2を標的にしたSTI-001開発検体のin vivo薬効試験(抗腫瘍活性)を公表しました。

 

EME社は、2020年9月に児玉先生とVHH抗体の有用性についてお話しました。当時、東大ではCupid構築に一本鎖抗体フラグメントscFvを用いていました。scFvは構築が煩雑な上構造が不安定なので、安定性に優れるVHH抗体の活用をお勧めしました。これがきっかけでEME社とSavid Therapeutics社の共同研究が開始され、EME社のがん光免疫療法への参入の扉を開くきっかけとなりました。EME社は前回のコラムで紹介したVHH抗体スクリーニング・プラットフォーム“The Monthの開発によって標的分子に対するVHH抗体を1ヵ月もあれば幾つも取得できます3。さらにCupid-VHH融合体を大腸菌で調製する技術基盤も確立しました。現在では、CupidとVHHの融合体の相性を調べるため結合定数を測定すると、単体のVHH抗体と同等のKD値で標的細胞に結合できることが判りました。in vitro抗腫瘍実験で近赤外線照射による薬効を確認しました。今後は多くのVHH抗体を光免疫療法のプラットフォームに乗せ社会実装したいと考えています。

 

光免疫療法はがん治療の五番目の柱(1外科治療、2放射線治療、3薬物治療、4がん免疫チェックポイント阻害剤治療、5がん光免疫療法)となります。効果・安全性に優れ、正常組織の機能修復能力が保持されるので理想の“局所領域治療(Loco-Regional therapy)”としてがん治療に革新をもたらします。また、これまでのがん特異性抗原の考え方が変わります。つまりがん特異的とは照射領域でがん特異性が保たれれば治療標的に活用できるという事です。薬効は光が照射された領域に限定され、さらに転移リスクの回避はがん免疫機能で補うことが出来ます。課題は近赤外線の照射方法にあります。近赤外線の体外からの照射は皮膚から数センチ程度ですので、体内のがんに応用する際には照射方法を決める必要があります。消化器系のがんでは内視鏡の活用が有効かもしれません。

食道がんや大腸がんなど消化器系がんの治療ではESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)が中心となっており、がん光免疫療法の出番があるのか問われます。しかしESDにも様々の問題があり施術にも限界があります。特に機能を保持する必要がある外科手術には様々な議論があり、組織ダメージの無いがん光免疫療法が推奨されるケースも多々あります。結論としては外科切除と光免疫療法の併用は、患者QOLを最適に維持するために極めて重要と考えます。

 

今回のコラムでは、VHH抗体の新しい利用モダリティとしてがん光免疫療法への応用を紹介しました。がん治療の第5の柱としてがん光免疫療法を確実に育成して行くために、EME社はVHH抗体を活用して参ります。

ご興味がある方は是非EME社と連携してがん光免疫療法に取り組んでみませんか?ご相談をお待ちします。

 

 

EME取締役(創薬開発事業部担当 土屋政幸)

 

 

References

  1. Takahashi, K., Sugiyama, A., Ohkubo, K., Tatsumi, T., Kodama, T., Yamatsugu, K., & Kanai, M. (2021). Axially-substituted silicon phthalocyanine payloads for antibody-drug conjugates. Synlett(AAM).https://www.thieme-connect.com/products/ejournals/abstract/10.1055/a-1503-6425
  2. Kenzo Yamatsugu, Hiroto Katoh, Takefumi Yamashita, Kazuki Takahashi, Sho Aki, Toshifumi Tatsumi, Yudai Kaneko, Takeshi Kawamura, Mai Miura, Masazumi Ishii, Kei Ohkubo, Tsuyoshi Osawa, Tatsuhiko Kodama, Shumpei Ishikawa, Motomu Kanai, Akira Sugiyama,Antibody mimetic drug conjugate manufactured by high-yield Escherichia coli expression and non-covalent binding system,Protein Expression and Purification, Volume 192,2022,106043,ISSN 1046-5928,https://doi.org/10.1016/j.pep.2021.106043.(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1046592821002266)
  3. Murakami, T., Kumachi, S., Matsunaga, Y., Sato, M., Wakabayashi-Nakao, K., Masaki, H., Yonehara, R., et al. (2022). Construction of a Humanized Artificial VHH Library Reproducing Structural Features of Camelid VHHs for Therapeutics. Antibodies, 11(1), 10. MDPI AG. Retrieved from http://dx.doi.org/10.3390/antib11010010
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