2020.01.15

第3回コラム

新年明けましておめでとう御座います。

皆さんの良き一年を祈っております。

 

さて、私は昨年12月に、毎年SanDiegoで開催される国際抗体学会に久々に参加して来ました。抗体医薬研究は新世代(次世代)の抗体分子の創薬研究が加速していますので、今後の動向については大変に重要ですので別途報告したいと思います。今回のコラムは、“バイオ医薬品の変遷”について概説します。

 1980年代の初めに遺伝子組換え型のヒトインスリンやヒト成長ホルモンが上市されたことで生理活性物質を遺伝子組換え体として製剤化するバイオ医薬品の開発競争が激化し、製薬企業をはじめ食品・飲料・素材メーカー、そしてバイオベンチャーなど広範な企業がバイオ医薬品の研究開発に参入しました。そして、インターフェロン、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子など第一世代のバイオ医薬品を代表するブロックバスター医薬品が相次いで誕生しました。夢は膨らむばかりでしたが、生理活性物質は次々に見つかるもののバイオ医薬品として開発できるものは期待したほど多くはないと多くの企業が次々に撤退してしまいました。

 一方、マウスやラットを用いてモノクロ―ナル抗体を取得するハイブリドーマ技術が英国MRC(Medical Research Council)で開発され、抗体医薬品への期待が大いに高まりました。特にがん細胞に結合する抗体は、“ミサイル療法”とも呼ばれ、がん治療に革命をもたらすと大騒ぎになりました。実際に数多くの臨床評価が行われましたが、これらげっ歯類の抗体はヒトでは異物として認識され、強い免疫反応を誘導することが分りました。また、臨床応用のためには幾つかの課題も明らかになり、結局臨床で有効性を示すことなく開発は中止されました。唯一抗体医薬品として上市に至ったのは、臓器移植時の拒絶反応を抑制するマウスOKT-3抗体のみでした。抗体医薬品にも暗雲が立ち込めていました。

 しかし、MRCはすでに一歩先を行く“げっ歯類の抗体のヒト化”に関する技術開発を着々と進めていました。そして1986年に世界で初めてラットモノクロ―ナル抗体CAMPATH-1Hのヒト化を報告(2001年慢性リンパ性白血病への適応で承認)しました。欧米では幾つもの抗体創薬ベンチャーが起業され、世界の創薬大手はバイオ医薬品の研究開発を抗体医薬品へと大きくシフトしました。しかし、当時の日本では抗体を医薬品として活用することに懐疑的な見方が多く、特に経口製剤を前提とした慢性疾患治療領域では大きな期待はありませんでした。しかし、1990年にインターロイキン-2(IL-2)受容体に結合してIL-2の生理作用を抑制するヒト化抗体dacilizumabが報告されると、病因となっているサイトカインや生理活性物質の阻害剤の製剤設計は、それまでの可溶型受容体Fc融合タンパク質から抗体へとシフトしました。

 私は、1990年9月に渡英し、MRCにてインターロイキン-6(IL-6)受容体に結合してIL-6の生理作用を抑制するヒト化抗体の研究を始め、翌年にヒト化抗IL-6受容体抗体tocilizumabの作成に成功しました。本品はアクテムラとして、2005年に国産初の抗体医薬品としてキャッスルマン病治療薬として承認されました。その後、関節リウマチ、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎および全身性若年性特発性関節炎に適応を拡大し、さらに2017年には難病指定の高安動脈炎・巨細胞性動脈炎への適応も取得しました。先に述べたように抗体創薬は欧米に大きく遅れをとりましたが、日本初の抗体医薬品も着実に創薬され、tocilizumabに次いで2012年に成人T細胞白血病への適応で抗CCR4抗体mongamulizumab、2014年にメラノーマへの適応で免疫チェックポイント阻害抗PD-1抗体nivolumab、そして2017年に血友病Aへの適応で血液凝固第8因子の活性をミミックするバイスペシフィック抗体emicizumabが承認されています。

 さて、抗体医薬品全体を見ると、現在までに80品目が承認され、研究開発ステージには700を超える品目があります。ただし、標的抗原についてはすでに臨床で評価されている抗原に集中しており、34の抗原に対して300以上の抗体が上市品との差別化を図りながら開発が進められています。また上市品の特許切れに伴って、例えば2017年に欧州では抗CD20抗体rituximab BSや抗TNF抗体adalimumab BS、また2018年に日本では抗Her2抗体tratuzumab BS、抗TNF抗体infliximab BSが次々に上市され、抗体医薬品バイオシミラーの市場参入は今後も加速すると思います。

 なお、疾患領域についてはがんや炎症・免疫が中心でしたが、今では幅広い領域で抗体医薬品が登場しています。例えば、生活習慣病領域ではLDLコレステロールの代謝に関与するPCSK9に対する抗体alirocumab とavolocumabが高コレステロール患者のLDL値を顕著に減少させることが確認され2016年に承認されました。また片頭痛治療としてCGRP受容体に対する抗体erenumabも最近承認されました。また、希少疾患に対してバイオ医薬品への期待が高まっていますが、最近繊維芽細胞成長因子23(FGF23)に対する抗体burosumabはX染色体遺伝性低リン血症への適応を取得しています。

 このように病因の分子メカニズムが明らかにされれば、まずは製品・製剤設計として抗体医薬品が選択される時代になりました。 次回のコラムではいよいよ次世代抗体医薬品へのシフトについて記載します。ご期待下さい。

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