【根本】第10回 抗体作製の新潮流:脱・動物(Animal-free)とAIが変える未来

抗体作製の新潮流:脱・動物(Animal-free)とAIが変える未来

 昨年2025年12月に開催された日本抗体学会では、抗体科学が今なお進化の過程にあり、深めるべきテーマが尽きないことが再確認できた。かつては「抗原枯渇問題」などから抗体医薬の限界も囁かれたが、現在は第一三共の「エンハーツ」に代表されるADC(抗体薬物複合体)のような日本の「化学力」を活かした技術や、VHH抗体といった次世代モダリティの登場により、まさに隔世の感がある。
一方で、世界的に見逃せない大きな潮流が二つある。それは「脱・動物由来抗体(Animal-free)」へのシフトと、「AIによる抗体デザイン」の進展だ。背景には動物愛護だけでなく、従来の動物由来抗体が抱える深刻な「再現性の欠如」という実用上の課題がある。調査によれば、市販の動物由来抗体のうち標的に特異的なものは半数以下に留まり、その質の低さによる損失額は年間最大8億米ドル(1200億円)に達するとも言われている。このような状況の中で研究用抗体市場は2023年に16億米ドル(2500億円)から2030年までに22億米ドル(3400億円)へ成長すると予測されている(年平均成長率(CAGR)4.8%)。今さら、研究用抗体市場はなぜ成長するのであろうか?

 まず挙げられるのは、研究現場における「再現性」への意識の高まりである。遺伝子配列が明確なリコンビナント抗体への置き換えが進み、単価が上昇しても品質と信頼性を優先する傾向が強まっている。これは単なる価格上昇ではなく、市場の質的転換を意味している。
さらに、プロテオミクスをはじめとするオミックス解析の進展も大きい。疾患理解が分子レベルへと深化する中で、特定タンパク質を高感度かつ特異的に検出できる抗体は、依然として不可欠な研究ツールである。がんバイオマーカー探索や精密医療研究の広がりは、この需要を着実に支えている。加えて、研究用途で設計された高品質抗体が診断分野へ展開される動きも見られる。研究段階から配列が定義され、再現性が担保された抗体は、臨床応用との親和性が高い。研究と診断の境界は、徐々に近づきつつある。そして、中国やインド、東南アジアを中心とした新興国におけるライフサイエンス投資の拡大も無視できない。研究基盤の整備が進むことで、試薬市場の裾野は確実に広がっている。
このように見ていくと、研究用抗体市場の成長は量的拡大というよりも、「質の転換」と「用途の拡張」によって支えられていると言えるのではないだろうか。

 さて、Animal-freeの抗体候補取得に関してはファージディスプレイが王道であり、また、AI利用はすでに大手製薬企業を中心に導入が進んでいる。EMEはファージディスプレイの1000倍以上の配列群を一度に探索可能なcDNA display技術を使って、VHH抗体取得において着実な実績を積み上げてきた。この経験をIgG抗体取得に活かすことも一つの時代の要請ではないかとも考えている。Animal-freeへの移行は、単なる規制への対応ではない。それは、これまで不可能だった解析を可能にし、研究のスピードを劇的に高める『科学のインフラ刷新』だと考えられる。EMEがその旗振り役として、「抗体」の世界にどう風穴を開けるのか。その際の課題は何だろうか。その辺のところを次回のコラムでお話したい。

 

2026年2月
代表取締役社長 根本直人

 

 

【参考文献】
Bradbury et al. Nature. 2015 Feb 5;518(7537):27-9
Berglund et al. Mol Cell Proteomics. 2008 Oct;7(10):2019-27
Algenäs et al. Biotechnol J et al. 2014 Mar;9(3):435-45.
Baker et al. Nature. 2015 May 21;521(7552):274-6.
Modi et al. Altern Lab Anim. 2025 Sep;53(5):271-280.

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